「毎日新聞」農業再論 08年3月3日
農業再論 地域医療の最前線で
「私は農協職員です」。
唐突な自己紹介に面食らった。
先日、長野県の南相木(みなみあいき)村国保診療所長、
色平(いろひら)哲郎医師(48)とお会いした時のことだ。
東大中退後、世界を放浪。
帰国して京大医学部に入り直し、医師免許を取った。
農村医療の草分けとして名高い若月俊一佐久総合病院名誉総長
(故人)の指導を受け、10年前から人口約1200人の
南相木村で地域医療の最前線に立ち続ける。
長野県厚生農業協同組合連合会(JA長野厚生連)からの出向
だから、確かに農協職員だ。
その色平さんによると、地域医療のメッカと言われた
佐久地方でも今、医療の崩壊が進行している。
周辺の医療機関で医師が足りなくなり「最後のとりで」である
佐久総合病院とその分院、診療所に急患が集中しているという。
毎年、国内外から訪れる百数十人の実習生の指導にもあたる
色平さんは、若月元総長が提唱した「農村医科大学」構想の
意義を改めて強調する。
医師の不足と偏在が叫ばれる中、医療技術を売るのではなく
「人を診る」医者を育てる必要性を痛感するからだ。
過疎化、高齢化、農林業の衰退。
「農村は多くの問題を抱えている。
だからこそ、医者にとってやりがいのある場所なんです」。
そんな「農協職員」の情熱が、山あいの村に暮らす人々の
命を支えている。(行友弥)
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