地域再生 模索する現場1  

医師囲い込み 各地で細る安全網 猶予なし
   「日経新聞」08年3月4日


大阪のベッドタウン三重県名張市。
市立病院の小児科が年明けから3人体制に戻り、
土曜の昼夜間の時間外救急も可能になった。
2005年夏に非常勤1人になったことから、
亀井利克市長自ら医大などを行脚した。

募集年収3500万円

「三重大学は医局の医師確保で厳しいとの回答で、
大阪に本拠のある関西医大に頼みに行った」。
だが、手ぶらではとはいかない。
小児医療/療育センターを設置する腹案をもって
「最低6人欲しい」と訴え、派遣を増やしてもらった。

小児科のテーマの一つが発達障害児の治療研究。
同市内の県立特別支援学校の伊賀つばさ学園、
民間の名張育成園との連携が可能で、
医師にとって勤めがいのある病院だと訴えた。
亀井市長は医師確保で中国に飛ぶことも検討する。

「21世紀は医師過剰時代を迎える」という政府の
見通しのもと1980年代以降、医学部や医大の定員
を減らしてきたツケが今、地域を直撃する。
日本の人口当たり医師数は経済協力開発機構(OECD)
加盟30カ国平均値の約7割で下から数えて3、4位。

臨床研修制度の変更が地域間格差に拍車をかけ、訴訟を
嫌気して産科医志望者が減る診療科目の不均衡も広がる。
泉佐野市立病院(大阪府)が麻酔医一人年収3500万円で募集
するなど、企業誘致同様各地でおカネの競争も始まった。

08年度の都道府県予算案は大都市圏、地方圏を問わず、
卒業後の県内病院勤務を条件に奨学金の返済を免除するなど
医師囲い込みを目指す。

東京都も「医師勤務環境改善」」費を新設、
7億6300万円計上した。
医師が一人抜けると残った人の負担が過重となり、
ドミノ式に抜けて、病院崩壊を招く。
離職防止や子育て女医の復職などを支援する。

医師不足だけではない。
市町村が保険者の国民健康保険も危機だ。
被保険者の過半が高齢者や低所得者で、
国、都道府県などの補助が過半を占めるにもかかわらず
06年度3200億円の実質赤字。
保険料滞納は07年6月現在474万世帯にのぼる。

そして公立病院の経営難。
ドクターヘリを備えた年中無休の救命救急医療、訪問診療、
福祉との連携による生活支援など地域医療のモデル
として知られるJA厚生連佐久総合病院(長野県佐久市)。
医療問題の論客でもある同病院の色平哲郎医師によると、
最近の県立5病院の年間診療報酬総額(売り上げ)150億円、
県費投入70億円に対し、同病院は各200億円、5億円。

公立病院は一般的に医師、看護師、そして
自治体派遣の事務局員らの経営感覚が乏しい。
地域の医療需要への対応が不十分で給与、委託費など
コストも割高だ。

経営改善の余地

逆に言えば、経営立て直しの余地はあるということだ。
財政再建団体の夕張市は市民病院も公設民営化、
診療所にしてベッド数を縮小した。
同じ北海道の旧瀬棚町で予防重視で実績をあげた村上智彦医師
が赴任して以降、在宅療養重視を含め改革が始まった。

基幹病院と診療所の連携などと合わせて
過疎地には遠隔地診療も急ぐ必要がある。

憲法25条は国民の生存権保障、政府の社会福祉/社会保障
の増進義務を定め、地方自治法は第一条の二で自治体最優先
の役割として「住民福祉」を掲げる。
医療は核心だが、生活保護の支給漏れやずさん支給もある。

高齢化、ワーキングプアの増加、そして財政難の中、地域の
セーフティーネット(安全網)の張り替えが迫られている。


医療/福祉問題に限らず、地域が直面する課題は多い。
消滅の危機にひんする「限界集落」の維持、建設業の疲弊が進む経済の立て直し、
そして政治の役割は−−。
地域の再生に向けた取り組みを各地から報告する。

写真キャプション:
近隣医療機関の機能不全で佐久総合病院も
急患受け入れが限界に(長野県佐久市)

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