新「脱ア?入欧」…アはアジアにあらず


アメリカ合衆国と日本の関係が、政治、経済、文化など各方面で、
もはや切っても切れない間柄なのは誰もが知っている。

日米関係は重要だ。

しかし、最近の両国関係は、ガキ大将と使い走りのような図式がいよいよ強まっている気がしてならない。

ガキ大将は、暴力的だが、稀にいいこともする。

一方、使い走りは、服従するばかりで「顔」が見えない。

暴力のお先棒も担ぐ。

気がつけば、周囲から軽蔑のまなざしを向けられる……。

どちらがジャイヤンでどちらがスネオか、説明するまでもないだろう。

医療分野への市場原理導入の急先鋒「規制改革・民間開放推進会議」の後ろ盾は、いうまでもなく米国だ。

04年11月、推進会議に招かれたジェームス・P・ズムワルト経済担当公使
(ハワード・H・ベーカー駐日米国大使の代理)は、次のように意見表明をした。

「医療分野においては、皆様よくご承知のとおり、日本は、ひっ迫する財政と急速な高齢化に対応するため、
医療制度の改革を推し進めています。

注目すべきは、日本における平均的高齢者の医療費は65歳以下のそれに比べて5倍以上で、
それが過去10年間にわたり高齢者医療費を年率8%押し上げている点です。

医療機器・医薬品の薬事規制と償還価格制度(→混合診療)を改善することが、
日本の医療制度改革の鍵となる要素です」

そのまま受けとれば、まっとうな発言のように思えてしまうが、ちょっと待ってほしい。

確かに日本の財政は火の車だ。

財務省データによれば、03年度末で日本は国と地方合わせて1000兆円の借金。

国の借金だけでも総額700兆円。紙幣が紙くずと化したアルゼンチンのような
「デフォルト(債務不履行)」の恐れが「ない」とは言い切れない。

が、財政を立て直すには、まず赤字の源である重厚長大型公共事業を、
「天下り廃止」とともに全面的に見直さなければなるまい。

公共事業は地方の雇用、経済を下支えするというが、
長野県の「脱ダム宣言」にみられるように大型事業は飽和状態。

無駄な道路や、利用者がいない橋などを数え上げればきりがない。

その経済効果も薄れている。

財政赤字を減らすには、改革の優先順位を公正に吟味しなくてはなるまい。

それを「ひっ迫する財政」という大雑把なくくりで、医療費を抑えよとの論法は短絡的にすぎる。


もちろん医療分野でもムダは切り詰めなければならないが、
はたして医療費そのものが財政危機をもたらす大きな要因といえるのか。

客観的なデータを提示しよう。

日本の医療費水準は、他の先進国に比べて非常に低い。

総医療費=約30兆円は、パチンコ業界の市場規模と同程度。

GDP(国内総生産)に対する医療費の割合は7.6%と低く、OECD30ヶ国中で20番目あたりだ。

医療費のGDP比が一番高いのは13.1%の米国。次にドイツの10.6%ときて、先進7カ国の平均は9.2%。

日本はOECD平均の「8.1%」をも下回る(00年時点)。

かくも日本の総医療費が抑えこまれているのは、国と自治体による公的負担と、
会社などの事業者負担が少ないからだ。

30兆円の内訳をみると家計負担(保険料の支払いと自己負担)が45.4%、
公的負担が32.4%、事業主負担は22.3%。

国民の自己負担率は、最近、韓国のそれが急上昇するまでは世界で最も高かった。

この「事実」は、議論の前提として共有したほうがいいだろう。

「高齢化による医療費増加」は医療費抑制論のよりどころにされてきたポイントなのだが、
これまた「情報操作」の色が濃い。

日本福祉大学教授で医療経済学の論客・二木立氏は、「21世紀初頭の医療と介護」(勁草書房)
のなかで「人口高齢化によりわが国の医療費は急増する、わけではない」と次のように述べている。

「(老人医療費が、90年代以降、老人人口の急増で増えているのは事実だが)
見落としてはならないことは、わが国では、老人人口の急増と同時に「若年」(非老人)人口の減少が進んでおり、
その結果、「若人」の医療費は、他の条件を同じとすれば、減少していることである。

そのために、人口高齢化(正確に言えば、人口構成の変化・高齢化)が医療費総額
(国民医療費)に与える影響を検討する場合には、老人人口の増加による老人医療費
増加額から「若人」人口の減少による「若年」医療費減少額を引く必要がある」

二木氏は、高齢化による医療費増加を測定する「国際標準」を解説したうえで、自身の計算データを示して言及する。

「意外なことに、人口高齢化による年平均医療費増加率のピークは1990〜95年度の1.7%であり、
以後、この値は減少し続け、わが国の人口高齢化がピークになると言われている
2020〜2025年には0.9%にまで低下するのである」

そして、「一国内の医療費総額は所得によって決定され、高齢化の影響をほとんどうけないこと」を指摘。

また、65歳以上の老人の一人当たり医療費が、それ以下の若人層(0〜64歳)
の「5倍で世界一」との厚労省データも「正しくない」と述べる。

「欧米では入院医療が短期入院医療を意味するのと異なり、わが国の病院には、
欧米諸国なら老人福祉施設に移されるような医学的治療を終了した老人患者(いわゆる「社会的入院」患者)
が多数入院しているため、この倍率が相当高くなるのである」

介護保険の導入で、この倍率は「4.4倍」(00年)に低下。
カナダの4.90倍、オーストラリア4.09倍、スイス4.00倍と遜色ない。

ちなみに米国のそれは「4.60倍」だという。

推進会議での米国公使の発言は、自国を「棚にあげた」物言いと受けとれる。

「脱ア入欧」という言葉が、最近、ちらほら聞こえてくる。

脱アの「ア」とは、アジアではなく、アメリカ合衆国を指すようだ。

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「ご参考」

私はこの「脱ア入欧」との言葉、先月、東大の篠原一名誉教授から伺ったのですが、
これは普通名詞でなく、造語であり書名であることが分かりました

以下の本が、昨年、広井 良典教授により書かれています

脱「ア」入欧―アメリカは本当に「自由」の国か

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4757140711/249-8375681-9629919


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