「読売新聞」 都民版 「東京異聞」―4
                   05年1月6日掲載

認知症の敵 オートロック


マイナス二十度まで冷えこむ季節になった。
信州の山村では、厳冬期、お年寄りが家に閉じこもりがちになるので、
往診(訪問診療)が忙しくなる。
クルマがスリップしないよう用心しながら、ハンドルを握る回数が増える。

村では、医者や保健師、近所の住民が「互助の網」で支えなければ、
慢性疾患を抱える高齢者は過酷な季節を乗り切れない。
顔と顔の「安否確認」が途絶えたら、たちまち生命の危機に直面する。
特に「認知症(痴呆症)」の患者さんは、不意に徘徊しかねないので、注意が必要だ。


正直なところ、冬場は温暖な地域がうらやましくなる。
と、そんな愚痴めいた話を在京の友人にしたら、こう言われた。

「東京ではオートロックが、認知症の大敵なんだよ」

友人によれば、オートロックのマンションで家族と生活している認知症のお年寄りが、

たまたま一人で外出し、自宅に戻ろうとしてロック解除の番号を思い出せずに
締め出されることがあるという。
そのうち自宅の場所が分からなくなり、帰宅できずに迷ってしまうケースも増えているのだとか。

家族は心配してこうしたお年寄りを探し回る。
「体面」が気になるので、隣近所に一緒に探してくれとは頼めない。
家族と警察官が血眼になって探す。
ようやく、離れた公園で夜を明かしているところを見つけるが、
お年寄りは肺炎にかかっており、即入院。
一回の外出を機に生活状況が一変する。

住民の「安全」を保障しているはずのオートロックが、
弱者を危険にさらすとは皮肉な話ではないか。
凶悪犯罪が増えている現状からすれば、オートロックの必要性もあるのだろうが……。


ちなみにわが南相木村では、不審者が村に入ってきたのが発見されると、
各戸を結ぶ有線で、「押し売りとみられる男性が二人、白いバンで入ってきました。
皆さん、十分注意しましょう」といったような放送が流れる。
不審者にとって、これほど強烈なカウンターパンチはない。

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