医療の質

信州・佐久にて いろひらてつろう


医療は、いま多くの問題を抱えている。

WHO(世界保健機関)の指標で「世界一」と評される日本の医療が、
国民からは不信・不満の大ブーイングを浴びている。

「外」からは高い評価を受けるものの、内実は伴っていない。
このズレを正すことが、医療改革の「本筋」であろう。
不信・不満の多くは、「医療の質」に起因する。

たとえば名高い大病院での相次ぐ医療事故。
先端医療技術に医療スタッフの「技術連携」が追いつかないケースが目立つ。
その原因究明段階で「カルテ改ざん」や「責任回避」がくり返されるから、
国民の怒りは沸騰点に達している。

技術論として過誤を 防ぐ体制づくりは急務であり、医者自らが「透明性」を
確立しなければならないのは当然だが、大病院の「白い巨塔」体質が内部の
コミュニケーションを断絶させていることも見逃せない。

S医科大学の元外科医は内幕を語る。
「医学生は臨床実習で神経精神科にも回りますが、A教授の外来についた学生は、
口を揃えてこう言います。
医師の患者さんに対する対応ってあれでいいんですか?
A教授の患者さんに対する態度はひどい。
うつ病で受診した患者さんが、先生の質問に答えられず、うつむいて黙っていたり、
もじもじしたりしていると、なんで答え ないんだ? 
答えないならさっさと帰れ! なんて言ってます。
見ていて悲しくなっちゃいます、と」

このA教授が、S医科大学の「教育委員長」として医師教育の実権を握っているのは、
代々、出身校閥によって教授のポストが「世襲」されてきたからに他ならない。
A教授の教育者としての不適格性を指摘したこの外科医は、S医科大学を追われた。
捻じ曲がった大学閥の「既得権」を解体しないかぎり、同様の白い巨塔での医療事故
は後を絶たないだろう。

あるいは、大都市に医師が集中する一方で、地方は慢性的な医師不足に悩まされている。
佐久総合病院・小海分院の近くで長年地域医療に取り組んでいた100床規模の準公的病院が、
3年前、院長退任とともに大学医局とのコネクションが途絶えて医師供給がストップ。
たちまち経営が行きづまった。

当時、わずか19床だった小海分院に近隣から患者さんが殺到した。
分院の医師たちは、重篤の入院患者を診ながら、外来に対応。
当直の連続で「過労死」寸前まで追い込まれた。

経営に行き詰った準公的病院は、最終的に佐久病院が吸収・合併し、新「小海分院」
として再スタートする形で落ち着いたが、過疎地での「少子化」から産科は廃止された。


日本の医師数は、人口1千人当たり1.9人。
「先進国クラブ」と言われるOECD(経済協力開発機構)30カ国のうち、第27位。
諸外国に比べて、極端に少ない。
下位には韓国、トルコ、メキシコのみ。    

全国で全身麻酔手術をしている病院の「半数」にしか常勤麻酔医はおらず、
ひとりの麻酔医が複数の手術をかけもち。
チームで当る手術の出来不出来は、スタッフの人間関係が反映される。
多くの麻酔医は、初めて組む執刀医との間でストレスを抱えこみながら、
激務をこなしている。
医療過誤の背景にこういう厳しい現実があることも国民の方々に理解してほしい。

岩手県で幼い子どもが、深夜、救急外来に受けつけてもらえず、
病院をたらい回しにされて亡くなった事件は記憶に新しい。
一方、都会では、高齢の重篤患者が「手間も医療費もかかる」として病院から追い出され、
医療設備も整っていない福祉施設に「漂着する」ケースが多発している。

「医療の質」が、制度疲労によって悪化している。質をいかに向上させるか。
これこそ、国民、つまり「患者」が強く望む医療改革の主題だ。
大多数の国民は主義主張や経済力がどうであれ、老いて病気がちになり、100パーセント死ぬ。
患者の立場は、人類共通の普遍的な立脚点。
そこから医療のしくみを見直すことが、緊急課題であると痛感する。

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