「読売新聞」 都民版 「東京異聞」―3  04年12月9日掲載

紡ぎ直せ 「思い」の糸 


都心で診療している医師から、こう言われた。

「信州はまだ地域のつながりが残っている。でも都会ではコミュニティーが崩壊し
ている。人間関係で高齢者を支え、ケアするのは困難だ。まずは医療介護システムを
整備し、情報弱者が社会的弱者にならないよう、情報網を完備する必要がある。医師
はシステムに従って機能的に動くしかないのだろうよ」

なるほど「東京砂漠」と呼ばれる人間関係の荒野では、システムや情報が「命綱」
なのだろう。確かに医療と福祉の仕組みには、地域性が色濃く反映される。

しかし、どうも腑(ふ)に落ちない。現実に障害を抱えて生活している高齢者に
とって、システムや情報といった言葉の肌触りは、冷たい。その根本にあるべき「思
い」が、なかなか伝わってこないのだ。

向井承子さんの著書『患者追放―行き場を失う老人たち』(筑摩書房)には、都会
の重篤な高齢患者が「お金も手間もかかる」として病院に受け入れられず、満足な治
療設備のない施設に“漂着”する実態が赤裸々につづられている。行き場のない高齢
の患者を引き受ける施設長(医師)は「ここを頼ってきた人を受け入れるのは私たち
の責任」と腹をくくる。

どれだけ情報網を張り巡らせても、網の目からこぼれ落ちる人はいる。最終的に、
その人たちを受けとめるのがシステムではなく、「思い」を共有する人のつながりで
しかないところに、現代の悲劇があろう。

「思い」は、人が人と対面しなければ伝わらない。砂漠のような都会だからこそ、
コミュニティーは崩壊した、と決めつけるのではなく、そのズタズタにされた糸を紡
ぎ直す作業が重要なのではないか。

たとえば、災害時。地域の小学校こそ、顔と顔の見える世代間交流の場として活用
すれば、生命を守る器になる。日頃から、医療従事者が「万が一」に備えて、小学校
と交流し、地域の糸の結び目になれないか……などと勝手な夢想をする。

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