「ショック死」「疲労による死」とは・・・
新潟県中越地震では多くの方が被災され,報道に接するたびに心を痛めています.
不幸にも命を落とされた方もおられますが,一部の方の死因をマスコミが「ショック死」「疲労による死」と報道していることにはやや疑問を感じています.
そもそも「ショック」とは身体への過剰な侵襲による多臓器の急性循環不全」を指す厳密な医学用語であり,「強い精神的衝撃」という程度の意味の日常語としての「ショック」と混同して使用することは無用な誤解を与えかねません.すなわち,「ショック死」という言葉はまるで被災者が地震による強い精神的衝撃のために死に至ったような印象を与えます.
医学的な真相は(現場を見たわけではないのであくまでも推測ですが),
被災をストレス源とする精神・身体の強いストレス反応
→ストレスホルモンの体内での増加,交感神経系の持続的亢進
→凝固能亢進
→心筋梗塞・脳梗塞・肺梗塞などの急性の致命的疾患
→死
という過程を経ているのでしょう.
これは医学的に容易に予想しうる病態であり,願わくばこうした病態の予防が被災現場で図られることを祈ります(ただしそれが現場の医師にとって困難な作業であることは重々承知しております).
これを安易に「ショック死」と呼ぶことは一般視聴者に誤った情報を与えかねず,また被害をセンセーショナルに報道する意図すら見え隠れし,不適切と考えます.
なお,急死や病状悪化の原因には,インスリン・SU剤,ワーファリンのような生存に不可欠な薬剤が切れてしまったこともあるかもしれません.
大災害の後,避難所暮らしになり,医薬品の供給がどうにか戻るまでの数週間の間に投与されないことで致命的な薬剤はどんなものがあるのでしょうか?
今思いつくものとしては,
糖尿病
■インスリン
■SU剤
高血圧
■降圧薬
※特に多剤併用や高用量内服中の方
血栓性疾患
■ワーファリン
■血小板凝集抑制薬
膠原病など慢性炎症性疾患
■経口ステロイド
気管支喘息,COPD
■吸入ステロイド,吸入?刺激薬
甲状腺疾患
■抗甲状腺薬
■甲状腺製剤
※致死的ではないが著しくADLを低下させるものとして
疼痛性疾患全般
■鎮痛薬
精神疾患全般
■向精神薬
※特に抗精神病薬,抗うつ薬,パニック障害治療薬
といったところでしょうか.
他にもあるかも知れません.
今の自分の立場では直接のご支援は何も出来ませんが,一日も早い復旧を心からお祈り申し上げます.
(執筆 守屋章成 医師・事務長| 医療法人社団
カレス サッポロ家庭医療クリニック西岡)