世界の良心の「きずあと」、アフリカの修復


"Belgium clears path to developing world prosperity"

ベルギーが途上国の繁栄への道を切り開いた

デービッド・ヒルマン 04年7月5日  ガーディアン紙

トニー・ブレアはアフリカを、世界の良心の「きずあと」と呼ぶ。ゴードン・ブラウ
ンはそのきずあとを治す方法として、援助を倍に増やそうとしている。この大蔵大臣
は国際資金支援制度(IFF)がたった一つの方法だと言うが、今のところ、このチー
ムは楽屋で足止めをくらったままだ。先週、ベルギーはこれとは違うアプローチを試
みた。何十億ドルもの税収入が世界の最も貧しい人々の利益のために使われる道を切
り開く、為替取引税(CTT)のための法案を通したのだ。CTTは二つの大きな成果を達
成するための青写真だ。第一に、2015年までに世界の貧困を半減させるというミレニ
アムの公約を果たすための重要な収入源を、各国政府がどのように確保できるかとい
う方法を示した。第二に、しばしば貧困の原因となっている金融ショックを抑制する
しくみを、CTTは含有している。この二つの目的のためには別々の税率が必要となる
ため、ベルギーのこの法律は初めての試みとして二層の税率からなる税を定めてい
る。

普段の取引状況の中では、援助のための収入を創出することを目的として、CTTの税
率は低い。これは0.01%の範囲で、全ての為替取引の決済がされるごとにその時点で
徴収される。しかし、通貨の価値が急激に変化した時には、二つ目の税率が適用され
る(最大80%にもなる)。この懲罰的な税率の下では、為替取引を行っても利益が出
ないため、売買遮断システムの役割を果たし、通貨の暴落を防止する。このような反
投機的なしくみの必要性は、6年前のアジア危機で明らかになっている。国際労働機
関によると、このとき世界中で1000万人の仕事が失われた。

為替取引は世界で最も儲かる取引だ。毎日1兆ドル分以上のドル、ポンド、ユーロ、
円が取引きされている。安全取引税(Security Transaction Taxes)は金融システム
の一部となっており、G10のうち6カ国で徴収されている。このうちの一つとしてイギ
リスでは、0.5%の印紙保留税(Stamp Duty Reserve Tax)が徴収されており、2001
年には大蔵省の収入45億ポンドを生み出した。

CTTの二つ目の税率は、1987年の「暗黒の月曜日」の株価暴落の後に、ニューヨーク
証券取引所に導入された、売買遮断システムと概念的には同じである。現代では、株
価が急激に下落した場合、その会社の株式の売却は自動的に一時停止される。ベル
ギーのCTTの構成要素は、社会の主流の考え方に基づいているのである。

先週ベルギーで通されたこの法律の非常に重要なステップは、このような税を実行可
能にするには、巨大な規模ながら薄いマージンにおいて機能する市場に合うように、
十分に低い税率を設定しなければならないということが認識されたことだろう。為替
市場が電子化されており、今ではほとんどの取引が集中的にCLS銀行を通して行われ
ているため、この税の徴収は非常に少ない費用で効果的に行うことができることを、
ほとんどのコメンテーターが認めている。

ベルギーにおける進展をかんがみて浮かぶ重要な疑問は、「なぜイギリスでも同じこ
とをしないのか?」ということだ。大蔵省は、国連のミレニアム開発目標を達成する
資金を得るために、新たな収入源が必要だと認めている。開発資金を創るために、最
も富裕な国々がグループとなって銀行からお金を借りるというIFFを、同省は強く推
進している。しかし、米国、ドイツ、北欧諸国に、このようなイニシアチブに対する
意志が欠けていることは明らかだ。IFFはうまくいったとしても、部分的に成功する
程度にとどまるだろう。もし世界の貧困に対する取組みについてのゴードン・ブラウ
ンの感動的な言葉が、単なるレトリック以上のものであるのなら、少なくとも必要額
の一部を準備するために、今こそ為替取引税制を導入すべきだろう。

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・トービン=スパーン税:トービン博士とスパーン教授の2人の名前を冠した国際
税。トービン博士(02年逝去)はノーベル経済学賞受賞者であり、スパーン教授はフ
ランクフルト大学教授で金融学の専門家である。トービン博士のアイデアは一段階の
税率をかけるというものだが、これを下敷きに二段階の税をかけて南北問題に援用し
ようと提唱したのがスパーン教授である。

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