日経新聞 2002年1月12日長野県版
提言 若手が語る 信州の未来


南相木村国保直営診療所長 色平 哲郎 氏
「患者に寄り添う地域医療」
現場に一線の医師投入

2003年から始まる長野県の第4次保健医療計画の策定委員会が昨年末発足した。
田中康夫県知事がつくり上げようとしている保健医療政策の基本理念を描く役割を担う。
少子高齢社会にあって県内医療をどう改革するか。
策定委に参加する色平(いろひら)哲郎・南相木村国保直営診療所長に聞いた。


県衛生部は廃止に

  ーー県の医療政策の現状をどうみますか。

「衛生部は失政を重ねています。
例えば自治医科大に医学生を派遣する事業で、県は毎年一億円以上をつぎ込んでいる。
それなのにへき地の診療所に自治医大出身の医者が一人もいない」

「衛生部は廃止すべきです。
他県では社会部と衛生部が一体となっていることが多い。
部局を統合する際には保健、医療、福祉の三者の統合と責任あるリーダーシップの確立
が急務です」

「民間では倒産が相次ぎ、経営者も社員も必死です。
そんな時勢に、衛生部の医官は相変わらず天下りを続けている。
衛生部が所管している外郭団体も天下りの受け皿になっており、
外郭団体も原則廃止すべきです」

  ーー県立病院に対して批判的な声もあります。

「5つの県立病院は大きな問題です。
国立病院が独立行政法人化し、国立大学も法人化する時代。
県立病院だけが親方日の丸的な意識でいるならば、
貴重な県費を投入し続けることに県民の理解は得られないでしょう」

「県立病院の職員、医師の一部には意識変革を求めたい。
県立病院でなければ取り組めない公益的実践をアピールしないと、
現状での存続は許されません」


信大は臨床・教育を

  ーーなぜ医療行政はうまく機能しなかったのでしょうか。

「医療は医者にしか分からないという俗説が幅を利かせ、
医療行政の実権を握ったことが問題の本質です。
この俗説は大間違い。
医者という職業が生まれるずっと前、数千年前から人は人をケアしてきた。
ケアのほんの一部、比較的抽象化しやすくマニュアル化しやすい部分が
医学として転化したにすぎません」

  ーー信州大学の役割に期待することは。

「大学病院が複数あることによって医療費が膨らみ、
一方で長寿にならないというデータまであります。
前身が松本市営病院だった信大病院にこそ、県民や市民とともにある病院になってほし
い。
そして研究というより、臨床と教育に特化した病院に変身していただきたい」

  ーー医療をどのように再構築していけばいいのでしょうか。

「地域の現場に一線の医師を投入し、的確に判断して救急医療が必要なら町の総合病院
に送る。
絶対に救急車を断らない病院で治療し、ある程度回復したらまたすぐ地域に戻す。
それが”患者に寄り添う医療”です。
向き合った患者の気持ちを尊重し、互いの顔が見えるような地域医療が大事です」



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取材メモ

長野県は平均寿命が全国で男性一位、女性四位の長寿県。
これは行政の功績ではなく、むしろ県に期待できないからこそ、
佐久総合病院や諏訪中央病院といった医療機関が自立して医療の質を高めていったこと
が背景にある。

それらの病院では医者や保健婦が農村や町に出かけ患者と接してきた。
道端で血圧を測るなど、顔のつながった医療を展開してきた。

地域密着型の医療は低コストでもある。
病気の予防や早期発見によって、結果的に高度で高額な医療を減らすことができるから
だ。
長野県の老人医療費は全国で最も低い。

少子高齢化に伴う医療費負担の増大は長野県だけでなく、日本全体でも深刻な問題だ。
国や地方自治体の財政は厳しさを増しており、
佐久や諏訪の地域医療モデルは解決策になる可能性を秘めている。
(長野支局)
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