7月14日、朝日「夕刊」

改革者の目

こんなモンダを抜け出せ


――患者不在の医療が指摘されて久しいです。

ケアをする側が病院とはこんなもんだ、医師の役割とはこんなもんだという
「モンダ主義」に陥っているのが原因です。
先端医療に力を入れる医学部ならではの洗脳ともいえます。
政治の世界も同じでしょうが、何か新しいことに取り組もうとする際、
「モンダ主義」による思い込みを打破することが必須(ひっす)です。

何に取り組むにも、自意識のありようが問われる。
大切なのは世界の人々の人生がずいぶんと多様であることに気づくこと。
生き方、感じ方、みんなさまざまです。
多様性を前提にすることで寛容な感覚が芽生えてくる。
互いの弱さを絆(きずな)とし視点を低く振る舞うことが大事です。

各党が改革を声高に言いますが、富や利益といったプラス要因の公平な分配よりも、
損失や危険といったマイナス要因の公正な負担は、さらに難しい。
だれがどこまで譲るべきかという合意形成の技術にこそ、
現代に求められる政治の本質があると思う。

医療の世界も同じことです。

毎年、全国から200人ほどの医学生や看護学生が村を訪れます。
医療のあり方に疑問を感じるのでしょうか。
医療の使命は安心感を広げるべく日々に取り組み、
地域で幸せな生活を送る手助けをすることです。
この点で、あちこちの「ムラ」の診療所は広い世間のありようを学ぶのに最適です。

ムラはかつて、出産から死の看(み)とりまでを自前の努力で取り組む以外なかった。
つらい自前の自治の感覚が残っているから、
来た医者が良いか悪いかを決めるのは、今も村人。
地域医療は地縁血縁といったムラの有象無象との心理的格闘技でもあり、
人間関係を学ぶいい機会です。

改革。
自分たちが作り上げ、得意としてきたやり方を全否定することから、それは始まる。
今、政治家に、ムードで改革を語る余裕はないはずです。

倒産寸前のバーゲンセールを見守る店長は、客が群がっても喜べない。
自分も、沈没寸前の泥舟だからです。
政治のプロならば、当選後、
自分は雇われ店長だから腹を切る覚悟はない、と逃げることはできません。


色平 哲郎 いろひらてつろう

長野県南佐久郡南相木(みなみあいき)村の国保直営診療所長。
東大中退後に世界を放浪、その後、京大医学部へ。
無医村だった人口約1400人の同村に3年前、家族5人で赴任。
外国人労働者の生活・帰国支援にも力を入れる。
41歳。

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