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企業vs.国家:

国家・自治体から奪われる「公的」役割

     モード・バーロウ(カウンシル・オブ・カナディアン)

 

人類と生態系の生存、およびコモンズを守るための「市民アジェンダ」

 

◆はじめに

 

 今回のWTOウィークに参加して、皆さんの住む美しい国に来られたことを大変うれ

しく思います。私の所属する「カウンシル・オブ・カナディアン(カナダ人評議会)」

のメンバー10万人からのお祝いのメッセージを携えてやってきました。本当は「シア

トルでのたたかい」について、私たちが構築している地球規模の市民運動について、

そして日本の活気あふれる市民運動など各国とどうやって連携していかなければなら

ないかについて話したいのです。しかし、今日はWTOの問題点とそれに対して何がで

きるかについてお話します。

 「カウンシル・オブ・カナディアン(カナダ人評議会)」は15年の歴史を持つ、非営

利でいかなる宗教や政党にも属さない開かれた政策提言グループで、経済のグローバ

ル化による悪影響とたたかっています。カナダが米国との自由貿易協定を結んでから

10年以上経ち、その間にWTOも設立されました。このことは私たちカナダ人に大きな

影響を与えました。

 

◆カナダの経験から

 

自由貿易が始まってから数年間に、多くの米国企業がカナダの子会社を閉鎖し、カナ

ダにある工場の4分の1が消失しました。その後、カナダ企業の買収が本格的に始ま

り、カナダは米国に支配される経済的な衛星国家になったのです。石油・ガス・木材

などの天然資源部門からハイテク部門に至るまで、カナダ企業は米国の巨大企業に

乗っ取られ、カナダ本社は南に移っていきました。カナダ文化を守るためにたたかっ

てきましたが、いま自由貿易体制の下でカナダの雑誌も映画、TV、音楽も圧倒的にア

メリカ製のものです。WTOルールによってカナダは最近自国の雑誌産業を保護する権

利を失い、書店の棚を見てもカナダの雑誌は15%しかありません。

 全体的な政策も破壊されつつあります。政府支出の割合を見ると、連邦政府の社会

プログラム向け支出は1949年のレベルに落ちています。自由貿易が始まってから、貧

困に苦しむ子供は何と60%も急増し、その一方で億万長者が3倍に増えているので

す。

労働者もまた、自由貿易によって大きな打撃を受けています。企業経営陣の収入は大

幅に上昇したにもかかわらず、労働者の賃金は現状維持か引き下げです。事実、労働

者世帯の収入を見ると、最上位10%と最下位10%の格差がこの6年間で50対1から314

対1に広がっています。この10年間の失業率は1930年代以来、最高の値を示していま

す。パートタイム労働者や臨時雇用、契約社員、自営など「不安定就労形態」が急増

し、労働者は失業にともなう保護を失っています。給料から引き落とされて掛け金を

払ってきたにもかかわらず、1989年には80%近くが受け取っていた失業保険を、1998

年には失業者の3分の1以下しか受け取っていません。

 北米自由貿易協定(NAFTA)第11章、悪名高き「投資家−国家」条項によって、も

しカナダ政府(州であれ連邦であれ)が企業の最低限の利益に影響を与える法律を制

定した場合、米国企業は政府を相手に損害賠償を求める訴訟権を持つことになりまし

た。この第11章を使って、独自の環境条例や保健衛生条例を設定し、危機的状況にあ

る天然資源を保護するカナダの権限を制限するために訴訟が起こされています。1998

年、米ヴァージニア州に本社をおくエチル社は、ガソリン添加物であるMMT(エチル

社に反対する運動のリーダー、ジーン・シェルティンによると「危険な神経性有毒物

質」)の使用禁止を定めたカナダを提訴し、カナダ政府を追い詰めることに成功しま

した。敗訴と3億5000万ドルの賠償請求の支払いを恐れたカナダ政府は、MMT禁止を取

りやめ、事件にかかった費用への補償としてエチル社に2000万ドルを支払い、謝罪文

を発行しました。

 また最近のこととしては、米カリフォルニア州サンタ・バーバラにあるサン・ベル

ト社が、カナダ・ブリティッシュコロンビア州が数年前に水の大量輸出を禁止した件

で、カナダ政府に4億ドルの損害賠償を求める訴訟を起こしました。サンベルト社最

高経営責任者ジャック・リンゼイは「NAFTAによって、私たちもカナダの水政策に関

与することができるようになった」と述べています。

 たった10年のうちに、こうしたことが起きているのです。交通システムと通信シス

テムが統合されたため、農家は米国アグリビジネスに乗っ取られ、米国の「大規模

店」ウォル・マートやホーム・デポがカナダの小売業界を侵略するようになったので

す。そして、北米の統一通貨の話も出始めています。

 

◆経済のグローバル化

 

 これまでカナダの状況について話してきたのは、皆さんの多くが途上国に押し付け

られる「構造調整プログラム」についてはご存知でも、自由貿易やWTOがいわゆる

「第一世界」に対しても服従を強制してきていることについてはあまり知らないので

はないかと考えたからです。カナダが経験してきたのは、経済のグローバル化、つま

り巨大企業による巨大企業のためのルールがかたちづくる単一のグローバル経済が与

えている影響の一端なのです。

 経済のグローバル化の特徴は以下の通りです。

 

1) 企業活動に都合の良い貿易協定以外には、いかなる国内法や

国際ルールにも従わずに操業する多国籍企業を拡大する

 世界の経済単位(国・企業を含む)の最も大きい100の経済体のうち52が巨大多国

籍企業によって占められています。世界の多国籍企業トップ200社の総売上高の合計

は、182カ国の国内総生産(GDP)の総計を超えており、その額は世界人口の下から5

分の4の年収総計の2倍に相当します。ウォル・マートだけでも161カ国より大きいの

です。巨大多国籍企業は、今や最も強力な経済機構となったのです。

 

2) 世界中の文化および生物多様性の破壊

 途上国にある遺伝子に関する遺産から利益を得るために、第一世界の企業は西欧の

市場価値に基礎を置くグローバルな単一消費者文化を創ろうとしています。北米の企

業文化が、世界中で各地の伝統や文化、技能、芸能、価値観を破壊しているのです。

その地に住みつづけてきた人々の暮らしが世界中で破壊されることとあわせて、地域

に根ざす文化への攻撃による影響は計り知れません。世界で話されている言語が次々

と失われており、21世紀末には世界の6000言語の半分が使われなくなるだろうと予測

されています。

 5700人のアジア太平洋の若者を対象に行なわれた最近の調査によると、若者の好む

食べ物と飲み物は、以下のようになっています。

オーストラリア:マクドナルド、コカコーラ

中国: マクドナルド、コカコーラ

香港: マクドナルド、コカコーラ

インドネシア: マクドナルド、コカコーラ

日本: マクドナルド、コカコーラ

マレイシア: KFC、コカコーラ

シンガポール: マクドナルド、コカコーラ

台湾: マクドナルド、コカコーラ

タイ: KFC、ペプシ

 地域文化を盗む行為は、各地に伝わる種子や遺伝子の盗用につながるものであり、

それは全てのコミュニティや社会に危機をもたらします。自然をも商品化する経済の

グローバル化は地球とそこに生きる生物種を危険な方向に追いやるものです。企業家

から環境保護主義者に変心したポール・ホーキンいわく、「グローバル経済の下で生

き残れるものは何一つない。野生生物保護区にしても、手つかずの自然や先住民の文

化にしても、この惑星上のあらゆる自然が崩壊しつつあることは誰の目にも明らか

だ。かつて生命を支える基盤だった大地、水、大気、そして海が、今日ではゴミ処分

場になっている。企業が世界を破壊していることは間違いない事実なのである」。

 

3) 世界の至るところで下層階級を固定化させ、北と南の不平等を拡大させる

 北の国々で賃金格差がこれほど拡大したのは、1890年代の徒弟制度以来のことで

す。最高経営責任者は一般労働者の数百倍の報酬を得ています。世界80カ国で一世帯

あたりの収入が10年前より低下しており、1987年と比べて絶対的貧困(1日1ドル以下

の収入)で暮らす人々が二億人以上増えています。世界の大金持ち225人の収入を合

わせると、世界人口半数の年収に匹敵する額になります。世界の金持ちベスト3(ビル

・ゲイツおよびマイクロソフト社幹部二人)の年収の合計は、最貧国48カ国の収入の

合計を超えています。かりに経済システムの正当性を、一握りの人に与えられる特権

でなく、多くの人たちが享受できる生活の質で判断するとしたら、グローバル経済の

悪行は明白です。

 

4) 万物の私有化

 経済のグローバル化を特徴付ける表現としては、インドの物理学者・活動家である

ヴァンダナ・シヴァによる「コモンズ(共有物・共有関係)の囲い込み」が最も適切で

しょう。共有の場所にあるもの、それゆえ私的利益のためではないものが、いま攻撃

にさらされているのです。これまで神聖と考えられてきた生命に関わる種子や遺伝子

などの分野、文化と遺産、大気と水、社会保障計画、保健衛生、教育など、万物が売

買の対象となっています。南米諸国では文化遺産までもが売り払われようとしている

ケースもあり、その周囲に企業がテーマパークを建設する計画が進められています。

 

◆世界貿易機構(WTO)

 

 WTOは、まさにこうした構造の上に作られているのです。WTOは世界最強の国際機関

です。もともとGATT交渉の最終ラウンドの延長線上に設立されたものですが、WTOは

商品(モノ)貿易のルールづくりに留まらず、文化や環境、食料安全保障、公正な貿

易、医薬品特許のルールづくりにまでその対象分野を広げています。他の国際機関と

違い、WTOには加盟国の法律や慣例、政策の変更を要求する法的拘束力があり、貿易

を制限するものであると見なせば、それを廃止させることができるのです。WTOに

は、労働や人権、社会・環境基準を守るための最低基準がありません。ですから、

WTOが各国の保健衛生や食料の安全性、公正な貿易や環境に関する法の改正を迫れば

ひとたまりもないのです。

 貿易は人類が出現して以来の歴史をもっています。もし生命がもつ他の側面に敬意

を払うなら、公正な貿易に関するルールは積極的なものとなるでしょう。しかしこれ

までWTOは生命の全てを我が物にしてきました。コモンズ(共有物・共有関係)を商品

に変え、自由貿易のルールを企業のためのものに強化してきたのです。

 三つの分野で、WTOの影響を見ていきましょう。

 

食料

 WTOは知的所有権について、これは遺伝子についての世界遺産だと主張し、巨大多

国籍アグリビジネスは農業の役割を再定義しています。これまでは人びとに食料を供

給するものだった農業は、いまやアグリビジネスに利益をもたらす道具となってしま

いました。気づかないほど短時間のうちに、巨大アグリビジネスは全ての食料を遺伝

子操作すること、そして国際貿易のルールはこれに反抗する政府や社会を取り締まる

ものとすること、を決めたのです。

 農業とコミュニティに根ざした生き方は、あっという間に一握りの多国籍企業に支

配されるようになりました。各国政府もこの動きに手を貸し、農家に対して、種子や

肥料、農薬、除草剤など全てを多国籍企業に依存するよう働きかけました。世界中の

農家は、モンサント社のような巨大ビジネスの奴隷になり、良心と熱い心のかけらも

ない企業によって、借金地獄にあえいでいるのです。

 

 企業のような民間セクターは、水についても、利益をあげることのできる最後の天

然資源として目をつけるようになりました。巨大多国籍企業(水、食品、エネル

ギー、輸送)は、水供給分野に進出しようとしており、この「青い黄金」の貿易を始

めています。企業の目的は、水を一般の商品として市場で売買すること、そして貿易

・投資協定によって水分野に対する民間資本の参入が保障されることです。

 WTOでは、すでに水を貿易対象の商品であると規定しています。一度この蛇口が開

けば、それを閉じるためにはWTO協定で認められた企業の権利を破るしかないので

す。WTOには、いかなる理由であっても輸出制限は行ってはならないとする条項があ

ります。水供給は、サービス貿易一般協定(GATS)においても、「環境サービス」と

いう新しいカテゴリーの下で商品として扱われています。もし水が私有化、商品化さ

れ、市場で売られるようになれば、本当に必要とする人には水が届かず、企業や輸出

加工区、あるいは水を買うことのできる世界の富裕層への供給が優先されるようにな

るでしょう。

 

社会保障

 企業は、社会保障の分野にも目をつけ始めています。サービスは目覚しく成長して

いる貿易分野であり、なかでも医療と教育は最も収益性の高い分野になろうとしてい

ます。世界全体で、教育関連支出は2兆ドルを超え、医療関連の支出は3.5兆ドルを超

えています。公教育と公的医療は、儲かる分野の開拓を常に目指している巨大多国籍

企業のターゲットになっています。多国籍企業がめざしているのは、公教育と公的医

療を国際競争のルールとWTO原理に従うよう改変することで、完全に民営化すること

です。

 多くの国では、国際通貨基金(IMF)の構造調整プログラムによって、かなり以前

から社会サービスが民営化されてきました。債務救済という名の下で、途上国では公

的社会サービスが廃止され、その代わりに利益追及の外国企業が入り込んで医療や教

育の「製品」を金のある「消費者」に売るようになったのです。もちろん、公的部門

が一国全体の社会サービスを提供している国もあります。しかし今では、こうした国

も攻撃の対象となっています。

 歴史上初めて、全てのWTO加盟国が、新たに策定されたサービス貿易一般協定

(GATS)の下で、社会保障を含む全てのサービスについて自由化交渉に応じざるをえ

なくなったのです。つまり、利益を追求する多国籍企業(保健衛生、教育、幼児・老

人介護)に対して、世界中どこにおいても「商業拠点を設立」し、公共部門と競争す

る権利が与えられたのです。欧州各国を含む世界40カ国が、すでに教育をGATSの

対象分野のリストに挙げ、外国企業に公教育部門を解禁しているのです。医療分野に

ついては、100カ国以上がGATSの対象リストに含めています。

 

◆新たな国際貿易システムに向けて

 

 この間の市民による目を見張るような世界規模の組織的運動は、グローバル化はい

かなる代償を支払ってでも受け入れるべき必然的な現象ではなく、政治的企てである

がゆえ、こちらも政治的に対応すべきであると主張しています。今こそまさに民主主

義と持続可能性、多様性、発展という基礎の上に立った新たな国際貿易システムを考

えるべき時なのです。私たちの「市民アジェンダ」は、地球と人類の未来、新たな国

際的な市民政治を創るために欠かすことのできない次の一歩について、民主的な議論

を開始するためのものです。このような市民政治を実現するためには、WTOから権限

を奪い返し、WTOを、各国政府から成るいくつものシステムによって構成される複合

的な世界貿易システムの中の一機関という位置付けに変えていくことが不可欠です。

 WTO交渉に、新たな分野(とくに投資分野)が含まれることを容認してはなりませ

ん。環境や保健衛生、発展、人権を守るための各国の法律や慣行をくつがえすことを

可能としているWTOルールは撤回されねばなりません。同時に、多国間環境協定(MEA

s)で定めている「予防原則」を無効とする現在のWTOの権限もなくさねばなりませ

ん。自治体や国レベル、および国際レベルの環境法と社会法は、不公正な提訴から保

護されねばならず、そのためには全ての紛争解決において国内法や自治体条例の合法

性が前提とされること、そして紛争解決パネルに対して市民グループが意見表明を行

えるようにすることが必要です。

 また、他の国際機関に権限を委譲することでWTOの力を相対化することも必要で

す。そのためには、MEAsやその他の社会権、労働権、人権に関する国際協定の実効

性を高め、現在MEAsに含まれている「WTOルールを優先する」条項を削除しなければ

なりません。そして、シアトル閣僚会議で明らかになったように、国際貿易の世界は

もはや一部のエリートや貿易官僚、そして企業の利益代表だけが集まる場ではないの

です。国際貿易は、世界各国の立法府やすべてのセクターの懸念に対して説明責任を

果たさねばならず、WTO交渉に臨む各国政府の立場は、議会による審議と承認を得な

ければならないのです。

 そして最も重要なのは、私たちが、人間生活と人権に関わる特定の分野をWTOから

除外するよう要求することです。コモンズ(共有物・共有関係)には属さないモノ

(商品)とサービスと、コモンズに属する生活領域を区別する必要があります。コモ

ンズと認識されるべき4つの広いカテゴリーを以下にあげます。

 

1) 環境や公衆衛生・保健、安全、福祉の破壊につながるために貿易してはならな

いもの

 このリストには、現在貿易されているモノとそうでないモノが含まれます:産業有

害廃棄物、希少生物、核技術および核廃棄物、武器、遺伝子組替え物質(GMO)。WTO

などの貿易機関は、この分野に関する貿易を制限ないし禁止している国際条約を無効

化してはならないのです。

2) 人類と生態系が生き残っていくために不可欠な物質であるがゆえに、私的利益

のために商品化してはならないもの

 このリストには、人類と生態系が生き残るために不可欠な基本的な物質が含まれま

す:地球の一部である大気、遺伝子、水、そしてすべての生物種−これらを専有化

し、利益を得る権利は誰にもなく、すべてのレベルの政府とコミュニティにおいて永

久に保護されるべき公共財産として宣言されねばならないものです。

 

3) 人類の共通の遺産であるために特許化されてはならないもの

 このリストには、公正な貿易ルールの下でなら取引きされてもよいかもしれない、

あるいはすでに伝統的コミュニティ間で取引きされているが、特許化や私企業の利益

追求のため取引きについては容認してはならないという生命体の領域が含まれます。

このリストには、種子や植物、動物のように取り引きしてもよい生命体、そして遺伝

子や人間の染色体のように貿易も特許化も許されないもの、が含まれます。エイズ薬

のように特許を取った薬品で売買され貿易もされているが、利益のために特許化され

てはならないものも含まれます。

 

4) すべての人に共通する公的権利であるため、WTOのような国際貿易機関や自由貿

易のルールに支配されてはならないもの

 このリストには、コミュニティの自立と民族の自決のために必要なコモンズの領域

が含まれます。農業のようなケースでは、人びとや政府が貿易を促進する場合も出て

くるでしょう。しかしその場合でも、その部門における国内コントロールを維持する

ために、常に公正貿易という条件を付することができなければなりません。

 たとえば医療など他のケースの場合にも、各国政府はこの領域を公的分野であると

宣言し、民営化を禁止するかもしれません。いずれにせよ、現在の自由貿易という概

念に基礎をおくあらゆる国際貿易協定が、こうした分野について民主的に決められた

定義を覆す権利を持つべきではないのです。こうした分野としては、食料と農業、大

気と水以外の天然資源、文化と文化遺産、保健衛生と教育、福祉と社会保障、があげ

られます。

 今こそこうした議論をすべき時なのです。第二次世界大戦後に世界貿易システムが

作られたときには、国連人権宣言で定められた権利が、いつの日か私物化・商品化さ

れ、高値をつけた者に売り飛ばされるために市場に出回るようになるなど想定されて

いなかったのです。

 生物多様性、種子、大気、水は生命の源であり、生態系の基盤であり、人類共同体

を維持するために欠くことのできないものです。国連人権宣言でうたわれているよう

に、地上に生きる人は全て「市民」としての権利を持っています。その権利とは、医

療、教育、住居、公平な賃金が支払われる有意義な仕事を手にする権利、そして人間

の尊厳などです。

 私たちには、生物多様性とそれを構成する生物を保全し、地上に住む全ての人間の

人権を擁護する義務があります。コモンズを商品化し私物化しようとする動きを阻止

し、この方向を逆転させなければなりません。こうした動きは、全ての種の生存とひ

とびとの基礎的ニーズを攻撃するものです。今こそ、地球上の命にとって神聖なもの

を公共のコントロールの手に、市民社会のコントロールの手に取り戻しましょう。

 

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