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エッセイ NIC NEWS 2000年12月号

 

 

            コモンズの悲劇

 

                  Global Gambling Casino

 

 

 

世紀の変わり目に思うこと・気になること

佐久地域国際連帯市民の会(ISAAC)事務局長 色平哲郎

 

 20世紀も今月限り、来月からはいよいよ未来の代名詞として使われてきた

21世紀──。長野県で外国人HIV感染者・発症者への「医食住」の生活支

援、帰国支援などを行うNPO「アイザック」の事務局長として活動されてい

る医師の色平哲郎さんに、「世紀の変わり目にあたって気になること思うこと」

を綴っていただいた。

 

 

「世界中を駆けめぐっている巨額なドルと円(一日 一兆数千億ドル)のじつ

に約98%が株式市場での投機に費やされ、実際の生産とサービスのために用

いられているのはわずか2%にすぎない」(「いのち・開発・NGO」新評論

社より)

大変なバブル状態になっている。「ブレーキのないジェットコースター」に

なった現状の世界貿易と国際金融の場では、ちょっとした出来事から投機筋が

動くことがよくあり、また動きそのものが、かれら投機筋にとってチャンスと

なっている。IMF(国際通貨基金)やIBRD(第一世界銀行)の存在こそ

が「安定」をつくりだす!との主張が長く幅を利かせてきた根拠はここにある

のだろうか。

一方、日本の国と地方の負債総額は650兆円といわれ、これをドル札にし

てつみあげると地球から月まで行って戻ってくる途中までになり、日本のGD

P総額の130パーセント相当額。危機的水準である。

(詳細 http://home.catv.ne.jp/hh/yoshio-i/Iro/01IroCover.ht

m)

***

 

冷戦が89年12月3日午後12時45分にマルタ島で終了して、フランス

大革命以来二百年間続いた国民国家の時代の終わりが始まった。こうして、「世

界がひとつ」になって十一年。グローバリズムという名の「真理」が世界をコ

ントロールし始めた。ウルグアイ・ラウンド交渉合意を受けてGATTから改

組されたWTO(世界貿易機関)は95年1月1日の設立以来、本来の「通産

省」の役割から「厚生省」「環境庁」「建設省」「労働省」「農水省」「自治

省」…、と、(つまりWHO、UNEP、UNDP,ILO、FAO等々の国

際機関から諸権限を奪うかたちで)事実上の「世界政府」の中枢として、その

権限を拡張してきた。WTOはあらゆるものをあらゆる分野にわたって「例外

なく」「キセイカンワ」し、「商品化する」ことを使命とする、強制力を持っ

た史上最強の国際機関である。

 

***

 

公共という言葉を「公」(パブリック)と「共」(コモンズ)に分けてみよ

う。するとこの後者、「共」つまりみんなの持ち物を、悲劇的にも「囲い込み」

「私有化」する状況、「コモンズの悲劇」ともいえる状況が世界中で同時進行

している。たとえばモンゴルでは、昨年、有史以来のコモンズであった土地(遊

牧地)の登記(つまり私有化)が始まったときく。入会(いりあい)権、漁業

権、水利権、といった「古来の権利」こそが長く、安易な乱開発からコモンズ

を保護する上での歯止めとなってきた。貿易/商品化/特許化しにくい(ある

いは、してはならない)共有物としてのコモンズ。生物遺伝子やヒトの血液、

臓器についても、コモンズとして別枠にとり扱うべきなのではないのか。

 

***

 

先日カナダからモード・バーロウさんを信州にお招きし、「公」と「共」に

ついて、地球上での意味付けについて伺った。「青い地球」上の有限なる資源、

淡水「青い黄金」をめぐる危機的状況については、来日記念として発刊された

彼女の「BLUE GOLD 〜独占される水資源」(現代企画室)に詳しい。「従来

の水資源が世界中でますます枯渇し、水質が悪化している今・・・この急速に

拡がるビジネス・チャンスを活かさない手はありません」(カナダ・G社の案

内パンフレット、「BLUE GOLD」より)

ここ信州では果樹栽培が盛んであり、果樹の根元に効率的に給水する「点滴

かん水」―― 少ない水で効率よく ――という新技術について知られるよう

になってきたようだ。報道によると、資材費、用水量ともに従来のスプリンク

ラーによるかん水法の十分の一、とある。(単位土地面積あたりではなく)単

位水量あたりの穀物収量を増加させる農業技術こそが、世紀の変わり目にあっ

て世界的に渇望されている。

 

 

[プロフィール]

色平 哲郎 いろひら・てつろう 

 

長野県南佐久郡南相木(みなみあいき)村国保直営診療所長、内科医、NPO

「佐久地域国際連帯市民の会(アイザック)」事務局長。1960年神奈川県横浜

市生まれ、40歳。東京大学中退後、アジアを放浪し、医師を目指し京都大学医

学部へ入学。90年同大学卒業後、長野県厚生連佐久総合病院、京都大学付属病

院などを経て長野県南佐久郡南牧(みなみまき)村野辺山へき地診療所長。98

年より南相木村の初代診療所長となる。

外国人HIV感染者・発症者への「医食住」の生活支援、帰国支援を行うN

PO「アイザック」の事務局長としても活動を続ける。こうした活動により95

年、タイ政府より表彰を受ける。

http://home.catv.ne.jp/hh/yoshio-i/Iro/01IroCover.htm

 

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