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         世紀の変わり目に

 

                  地球を覆う二つの「死」

 

 

先日、「赤十字シンポジウム2000」(主催、日赤本社・NHK)の

「プライマリー・ヘルス・ケア(PHC)の理想と現実」

と題した東京でのシンポジウムに出席し、

広報やテレビ番組での全国放映に協力した。

 

人々の中へ行き/人々と共に住み/人々を愛し/人々から学びなさい/

人々が知っていることから始め/人々が持っているものの上に築きなさい

 

しかし、本当にすぐれた指導者が/仕事をしたときには/

その仕事が完成したとき/人々はこう言うでしょう/

「我々がこれをやったのだ」と

 

この詩がシンポジウム当日、会場で読み上げられ紹介された。

中国の教育者、晏陽初(イェン・ヤン・シュウ)(1893−1990)

による詩「人々の中へ」は、PHCの精神をよく示している。

 

申し訳ないことだが、PHCの概念を日本語に変換することは不可能に近い。

「途上国の健康水準の向上を目指して取り組まれる住民参加の保健医療」

などと翻訳されることもあるが、かえって意味不明になってしまう。

 

PHCとは「医療の一分野」というより、「農村の一役割」であり、

医師等の専門家でなければ取り組めないといったものでは、まったくない。

 

似た言葉で、国内で使われるプライマリー・ケア(一次医療)とは、

まったく異なった、むしろ対極にある考え方であり、

「第一線の人々の、自前での保健・医療への取り組み」

との感覚をあらわしているからだ。

 

国内では、病院中心の医療体制が完備している。

だからこそ見落としがちなのだが、この丸い地球の上のほとんどは「医者のいない場所

」で、医療に手の届かない農山村や島々の方がはるかに広いのだ。

 

PHCの世界的な教科書として使われる「医者のいない所で」

というイラスト入りの冊子は、世界中の八十数カ国語で出版、

聖書に次ぐベストセラーといわれている。

 

しかし、この本の日本語版はなく、

この本の存在自体をご存知ない保健医療関係者が多数を占める。

 

この日本の「国民皆保険」状況こそ世界的には例外だと言えよう。

 

 

シンポジウムは「かわいそうなアジアやアフリカの難民やHIV感染者のために……」

という、いつもの「ノリ」ばかりではなく、

PHCのいくつかある取り組み方のひとつとして、

スピリチュアル・ケア(魂のケア)の側面もテーマとして取り上げられた。

 

そして、この「魂のケア」という点から見るなら、

「現代の日本社会こそ、世界でもっとも貧困であり、

問題をはらんでいるのではないか」との提起がなされ、熱心な討論がなされた。

 

「南」では日々たくさんの人が飢えや病のために死んでいく……。

一方の「北」ではたくさんの人が孤独感から来る「魂の死」を味わっている。

生きる意味や価値の不在、個の空洞化感の現実に悩んで、

「オウム真理教」事件のように、指針としての宗教にのめりこむこともあるだろう……。

世紀の変わり目―――。

ムラ医者の頭をよぎるものは、地球人の新世紀への期待より不安感の方が大きい。

 

 

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