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      川のふるさと

 

               新世紀への贈り物

 

 

人にふるさとがあるように、川にもふるさとがある。

信州は「川のふるさと」だ。

 

 

天竜川、木曽川、姫川、そしてもちろん信濃川(犀川と千曲川)の「水源地」だ。

水の流れは地下水脈にはじまり、わき水となり、(目に見える形では)小さな泉となっ

て、信州のほぼ全域にわたって分布している。

奥山を訪ねずとも、案外、身近な里山にこそ水の源があるものだ。

「足元を掘れ、そこに泉が湧(わ)く」

というニーチェの言葉は、ここ信州にこそ似つかわしい。

 

八ヶ岳の周囲、ある標高線に沿ってコンコンと、泉がわいている。

遅い春にワサビの白い花が咲いている。

本流はもちろんのこと、支流のそれぞれにも美しい水源があって、

ブナ林やカラマツ、シャクナゲやレンゲツツジの花園を抜けた奥に、

ポタリポタリと最初のしずくが落ちている。

 

残雪の多い年など、五月や六月のしろかきにも田植えにも、使える水は十分だ。

関西や九州の方々が来村する際、「実にうらやましい」

とおっしゃることが多い。

山の村にあって、日本で一番長い川の最上流域に暮らしているので、

日々「水利権」の存在を身近に感じている。

そして、ムラにあっては「水争い」の記憶は身近なものだ。

 

「この用水こそ、最も水量豊富にして、それだけに肝心な水であった。

しかも数多くの田をうるおし、順繰りに水を引いてきただけに、

干ばつの年など悲壮なことになった。

水を待ちきれず、夜陰に乗じて井堰を切ってしまう。

見つかる、けんかが始まる、血の雨が降る・・・」

村の古老の語りに、しばしば登場するところである。

 

 

二十一世紀は、水資源の枯渇が相当深刻な地球規模の大問題になる。

イスマイル・セラゲルディン世界銀行副総裁は、

「来世紀、紛争の火種となるのは、(原油ではなく)水であろう」と予測する。

いま世界で水不足に悩む人々は、二十六ヶ国で約三億人いる。

しかし、五十年後には六十六カ国に広がり、世界人口の実に三分の二に及ぶといわれる。

「かけがえのない水が、金のあるのところにばかり流れたら?」

 

世界に二百からあるという「国際河川」での上流と下流、

あるいは向こう岸とこちら側での「水争い」は、

水の豊かな日本列島からはしょせん他人事なのだろうか?

 

七月十八日付けの読売新聞によると、

「世界の水危機、急速に拡大」「国際紛争の火種に」との見出しがあり、

「水の輸入大国」としての日本について、

「湿潤な日本は一見、水危機と無縁のようだが、

実は多量の食料輸入を通じて世界の水需要と緊密にかかわっている。

日本の穀物輸入量は年間二千八百万トンを超え世界のトップクラス」

とし、ふたりの有識者の見解を挙げている。

 

「穀物は一トンの生産に対し水資源を約千トンも消費するだけに、

穀物輸入を通しての過剰な水輸入国から転換することが必要だ」

 

「農産物輸入は現在米国から歓迎されてはいるものの、

近い将来に水不足が世界の共通問題になると、

水(穀物)を買いあさる日本への批判に反転しかねない。

早急な対策を」

 

 

貧困にあえぎ、清潔な水を入手できないでいる人々や干ばつ地に水を贈ることは、

「川のふるさと」に住む信州人にこそ期待される、

お金にはかえられない「国際貢献」となろう。

 

 

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