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           WTO農業交渉

 

 

 一日一米ドル(約百五円)以下で生活する貧困層が、現在の世界には十三億人いる。

そして人類の半分にあたる三十億近い人々が、一日10仏フラン(約200円)以

下で生計をたてている。

開発途上国に住む45億人のうち、ほぼ3人に1人は飲み水さえ手に入れることができな

い。

世界の70以上の国で、20年前よりも一人あたりの所得が減少した。

毎年三千万人が餓死し、八億人が慢性的な栄養失調に苦しんでいる。

(ルモンド・ディプロマティーク98年10月号)

 

 途上国の債務問題と貧困対策は、七月の沖縄サミットや九月に開催が予定されている

ミレニアム国連総会でも、主要議題の一つになっている。貧困にまつわる飢餓や下痢、栄養

失調による死…

これらはもちろん保健医療の課題でもあるが、実は「政治」の貧困、分配の問題でもあ

るのだ。

 

世界の多くの子どもたちが命を失うことになっている現状の原因追及を、不衛生な飲

み水とか生活環境、予防接種や治療薬の不備、といったレベルの問題にとどめておいてはならな

い。

より重要なのはその先である。「構造的暴力」の問題にまで、目を向ける必要がある。

 

 むろん、腐敗した途上国政府にも、問題はあった。収入もないのに大事業を

やったツケだ。このツケの多くが、結果的に南の国の「土地なし農民」や先住民族にま

わされた。

女性や子ども、都市のスラム住民といった社会的弱者において貧困層は拡大した。

その上、軍事費には手をつけずにおいて保健医療や初等教育などの予算は削るとの国家

運営…

こんな「財政運営」を、いったい誰がやらせているのだろうか、と考えずにはいられな

い。

 

 世界最大の借金国は米国だ。しかし、米ドルは世界通貨であり、米国は、自国通貨

を印刷すれば、いつもでも債務の返済が可能だ。

 

 しかし、他の債務国ではこうはいかない。特に、重い債務を抱えた多くの貧しい

途上国では、稼いだなけなしの外貨を借金返済にあてている。「出稼ぎ労働」からの仕

送りや、輸出で得たドルを、せっせと「北の銀行」送るのだ。

 

 92年度の北から南へのODA(政府開発援助)の総額550億ドルに対し、南から

北への債務返済総額は1250億ドルにのぼっている。

つまり700億ドルの資金が、(常識とは逆に)南から北へ流れた。

 

 昨年十一月、世界貿易機関(WTO)閣僚会議は、途上国五十五カ国が署名を拒否

したことから決裂した。2000年版「通商白書」によれば、環境NGOによる大規模

でもにより閣僚会議に時間的制約が生じたことが、しあとる会議決裂の原因…とある。

 

 それは、WTO体制こそ、地域に根を張った世界中の小規模農業を壊滅させ、貧

富の差を広げ、失業と飢餓を増やし、米国など食料輸出大国の多国籍企業が、その世

界市場を独占するためのシステムにほかならない、と各国が考えたからだった。

(新潟日報2000年1999年12月10日から5回の特集記事)

 

 現地シアトルからの報道によると、WTO体制に対し「民主性、公明性、透明性、

均衡性」の四項目の変革を求め、数万人規模の民衆デモが行われた。デモには、米国

内の貧富の差の拡大と小規模農業の崩壊に不安を感じた若者たちが多数参加した。

 

 多国籍企業に対抗して、民衆の生きる権利と環境を守ることを主張するNPOやN

GOのとりくみは、非暴力主義に徹した現代の「百姓一揆」のようだった、と地元新

聞は論評している。(日本農業新聞2000年1月24日「視点」)

 

 EUのフィシュラー農業・漁業担当委員(欧州連合の農業大臣)は「農産物の全面

自由化によって、すべての農産物価格維持制度や農業保護を撤廃すれば、世界の四分

の三の農業者はつぶれる」と警告する。(日本農業新聞2000年元旦論説)

 

 小規模な「家族農業」こそが、世界のあちらこちらで、人々の生きる基盤を支えて

いる。WTOや経済のぐろーばりぜいしょん (地球規模化)の問題は、

山々に囲まれた信州のムラにとっても、決して無縁な話ではない。

 

 7月3日(月)夕方、望月町に、海外から二人のゲスト(タイとカナダ)を招いて

「徹底討論WTO」佐久セミナーを開催する。

詳細のお問い合わせはFAX0267−78−2015まで。

 

 

Walden Bello ウォルデン・ベロー;Focus on the Global South(タイ)

 Focusは1995年にバンコクで設立された情報・分析・研究を主体としたNGOです。共

同代表を務めるウォルデンはフィリピン大学とタイ・チュラロンコン大学の両方で教

鞭をとりつつ、農業・金融などの経済問題から安全保障問題に至るまで、幅広い領域

について途上国市民の視点からの分析を発表し続け、マスメディアにも頻繁に取り上

げられています。米国での長いNGO経験を背景に、米国政府の農業・通商・安保政策

に対する時機を得た鋭い分析にも定評があります。

 

 

Maude Barlow モード・バーロウ;Council of Canadians

 カナダの市民団体の連合組織であるカナダ人評議会の共同議長です。本業は著作業

であり、最近はカナダの教育・医療保健・生活インフラなどが外国企業に乗っ取られ

ている状況についての分析を多数発表しています。

 

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