心の病

向き合い 受けとめる



東京で研修医をしていたころのことだ。
壮年に達してから障害を負って、
同じように車いす生活を送るようになった2人と出会った。

一人は男性、一人は女性だった。
2人とも心やさしい人だったが、障害の「受け取り方」がずいぶんと違うことに気づい
た。
女性の方は、自分が障害を負ったことを、苦悩しながらも受け入れることができていた
。障害を背負った自分を肯定して、周囲の同じ障害を負った人々のことを気にかけてい
た。
男性は長い時間悩んだという。
親しくなった後、彼はつくづくこう言った。
「自分は会社の役員をしていたころ、街で、あるいは駅で車いすの人を見て、
嫌だなとは思わなかったが、ああはなりたくない、と思っていたんだ……」

自縄自縛という言葉がある。
自身の心の向きようのために、
かえって自分で身動きが取れなくなることだ。
さまざまな「偏見」を持つことで、
この「自縄自縛」なる状況に陥ることが多いように感じた。

長野県では身体障害者7万3千人、知的障害者1万1千人と並んで、
外来通院の精神障害者が1万2千人、5千人は入院しているという。
県民220万人からすれば、障害者手帳をお持ちの方という意味で考えても、
総数は案外多いのだ。
信州人二十数人が集まれば、平均して一人は「障害者」ということになろうか。


世話好きで人の2倍、3倍の仕事に取り組む人、
皆の相談相手になって頼りにされている人、
昇進したり転任したりして新たな期待感が周囲から注がれている人、
まじめ人間で休養や息抜きをしない、あるいはできないでいる人……。

こんな人が、まるで別人のように変ってしまう。
はしゃぎすぎていたり、「遠くへ行きたい」「消えてしまいたい」
などの言葉が出たら要注意、うつ病だ。


うつ病は、いわば心のエネルギーの欠乏状態だ。

気分が落ち込み、憂うつな状態が2週間以上続き食欲が低下。
疲れやすく、体重が減少。
首や肩のこり、時には狭心症様の症状が出る。
睡眠時間が短くなり、朝早く、しかもとてもいやな気分で目覚めてしまう。
午後から夕方になると多少気分はよいのだが……。
血液検査でも画像検査でも異常所見は出ない。
整形外科や内科を受診して、胃薬や心臓の薬をもらっていることもある。

仮面うつ病、マスクされたうつ病とよばれる、身体症状の訴えが前面に出るタイプだ。
落ち込んでいても、周囲は、無理に元気付けたりしてはいけない。
自殺につながることがあるからだ。

うつ病とまでいかずとも、うつ状態の人は国内に数百万人、との推測もある。
交通事故での死亡者が年間1万人ほどであるのに対し、
国内の自殺者は年間3万3千人。
不況の折、毎日90人という大変な数の人々が自殺している。
その3分の2のケースで「うつ」がらみという。


身体障害、知的障害と並び「心の病」への偏見は、地域にとりわけ根強い。
それがゆえにこそ「自縄自縛」になってしまい、
自分や友人家族が、「もしかしたら”うつ病”かもしれない」と気づくのが
遅れがちになるのではないか。

しかし思い当たる場合には、早期の受診と治療だ。
「偏見なく」考え、そして「ゆっくり休養し」、抗うつ薬を飲むことで、必ず出口が見
える。
効き始めるまでにしばらくかかるが、よい薬はあるのだ。
主治医を信じて「根気よく」取り組んでほしい。

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