風の道

高原の自然 エネルギーに


毎月一回、新設のトンネルを抜けて隣村・南牧村の野辺山高原へ往診に赴く。

村境の峠のトンネル出口は、標高がずいぶんと高いので、風がとても強い。
白銀の八ヶ岳連峰から眼下の千曲川までを、パノラマのように見下ろすことができる。
すばらしい景観だ。
車から降りて景色に見とれていると、強風に飛ばされそうになる。

千曲川を渡ったすぐのところでJR小海線の鉄路を横切る。
春5月、この線路脇(わき)に、こぶしの白い花が咲き始めた。
白い花は、川べりの湊(みなと)神社の社叢(しゃそう)の一部だ。

千百余年前、八ヶ岳溶岩流が千曲川をせき止めた時期があった。
当時、ここ海の口(くち)から海尻(うみじり)までは大きなせき止め湖になっていた。
甲州往還の旅人は、ここ湊神社を川港にして、舟に乗って往来したと伝わる。
溶岩流による天然のダムがあったとは、自然エネルギーの巨大な力を実感させる出来事だ。


このこぶしの木々は演歌「北国の春」に歌われた。

シラカバ、青空、南風……と始まり、
こぶし咲くあの丘、北国の、北国の春……と歌われた「北国の春」。
作詞者は南牧村の出身だ。

遅い春を迎えた野辺山高原では、まさにこの歌のように、
南風とともに、ツバメたちが遠い南の国々から戻ってきて、巣作りを始めている。
雪景色が消えて、フキノトウやウドなどの山菜が野にあふれ、
やがて忙しく高原野菜の植付け作業が始まる。

風の吹き通る道が、野辺山にはある。

冬場の地吹雪では、積もった雪が吹き飛ばされて、あちらこちらで雪山ができる。
道と周囲の畑の見分けがつかないような、危険な状態になることもしばしばだ。
この強風を何か利用できないものか、と以前から考えていた。


ヒントはドイツにあった。
昨年4月1日に、再生可能エネルギー法(自然エネルギー買取り法)
が施行されたドイツでは、風力発電が現在国内総発電量の2%を占め、
発電施設関連で、すでに3万人の雇用を生み出しているという。
このリストラ時代に、これほどの雇用を、
しかも発電用の風車が設置される「地域」に作り出している点は、非常に参考になる。

ドイツ連邦環境省の発表によると、ドイツの風力発電は、
約一万施設で610万キロワットを発電している。
これは世界最大で、全ヨーロッパの風力発電の半分、世界の3分の1を占める、という。
将来は北海とバルト海の洋上にも発電施設を設置することで、
計算上は、国内のすべての原子力発電所を代替することが可能になるそうだ。
今年3月、同法施行1年の総括として、
ドイツ連邦環境大臣ユルゲン・トリッティン氏は
「再生可能エネルギーの導入により、多くの雇用を創出するとともに、環境負荷を軽減
し、地球の気候変動対策、また将来のエネルギー供給への基礎を築くことができた」
と述べている。

いつか、野辺山高原の「風の道」に、三枚羽の風車が群をなして立ち並ぶ……。
その時、南佐久郡の人口は増加に転じているだろうか。

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